育児・介護と仕事の両立支援、その「理想と現実」~助成金だけでは解決しない、クリニック経営のジレンマ~

スタッフは喜び、院長は頭を抱える? 両立支援の「光と影」
「育児休暇が取れる」「時短勤務ができる」「正社員になれる」──
これらは、働くスタッフにとって、仕事と家庭を両立させる上で、かけがえのない支援策です。
特にキャリアアップ助成金などを活用すれば、非常勤から正社員への登用も可能となり、スタッフの
エンゲージメント向上に繋がります。
しかし、その一方で、多くのクリニックの経営者は「本当にこれで大丈夫なのか?」と頭を抱えています。
長期の育児休暇による人員不足、時短勤務でのシフトの穴、そして、診療報酬改定の厳しさや集患の課題。
理想的な両立支援が、かえって経営の重荷になる「光と影」が存在するのです。
今回は、このクリニック経営における「両立支援のジレンマ」に焦点を当て、その課題と具体的な対策
そして成功事例を交えながら、持続可能なクリニック経営とスタッフの働きがいを両立させる道を探ります。
「働きやすい」が「回らない」に? 両立支援がもたらす経営課題

育児・介護と仕事の両立支援制度は、スタッフの定着率向上や採用力強化に繋がる一方で
特に小規模なクリニックにおいては、具体的な経営課題として現れることがあります。
長期休暇による人員不足と業務停滞
あるある体験談
「スタッフの一人が育児休暇で1年半休むことになった。おめでたいことだけど、すぐに代わりは見つからないし、残りのメンバーで回すしかなくて、みんなの負担が限界に…」
育児休暇は最大2年(条件によりそれ以上)に及ぶこともあり、その期間の代替人員の確保が大きな
課題となります。
採用活動が難航すれば、残りのスタッフの業務負担が激増し、疲弊や離職の原因になりかねません。
時短勤務によるシフトの穴、特に「夜診」問題
あるある体験談
「育児から復帰したスタッフが時短勤務になったんだけど、夜診シフトには入れないって。
うちのクリニックは夜診がメインだから、その時間帯のシフトが全然組めなくて、院長も私も
毎日クタクタ」
子育て中のスタッフは、保育園のお迎え時間などにより、時短勤務を選択することが多くなります。
特に夜間診療があるクリニックでは、その時間帯にシフトを組むことが困難になり、特定の時間帯の人員が
手薄になる問題が発生します。
正社員登用と人件費の増加、経営を圧迫
キャリアアップ助成金は、非正規雇用から正社員への転換を促進し、スタッフの雇用安定に貢献します。
しかし、正社員化は、賃金や賞与、退職金制度、福利厚生の費用増加に直結します。
あるある体験談
「助成金が出るからとパートさんを正社員にしたけど、その後も診療報酬改定で点数は据え置き。
正直、集患も伸び悩んでる中で、人件費だけが増えてしまって、自転車操業のような状態です…」
診療報酬改定で点数増加が見込めない、あるいは地域での競合が激しく集患に苦戦しているクリニックにとって
賃上げや正社員への登用は、経営を直接圧迫する要因となります。
課題を乗り越える! 持続可能な両立支援と経営の両立策

これらの課題を解決し、スタッフが働きやすく、かつクリニックが安定して経営できる状態を目指すためには
戦略的なアプローチが必要です。
「辞める前提」ではない、計画的な人員補充と育成
●休業・復帰を見越した採用・育成
育児休暇取得希望者が出たら、早めに代替要員の採用活動を開始しましょう。
即戦力が見つからなくても、複数業務をこなせるよう多能工化を進めることで
一人当たりの業務負担を軽減できます。
●「教育」への投資
新人スタッフへの教育は、忙しい中でも計画的に行いましょう。
マニュアル整備やOJTの仕組みを強化することで、新しいスタッフがスムーズに
業務に慣れ、戦力になるまでの期間を短縮できます。
柔軟なシフト制度と業務効率化の徹底
時短勤務のパターンを増やす
一律の時短勤務ではなく
例えば「週数日はフルタイム、残りは時短」「夜診は外部パートを活用」など
スタッフ個々の事情に合わせた柔軟なシフトパターンを検討します。
医療DXの推進
電子カルテ、予約システム、自動精算機、オンライン診療の導入など、ITを活用した
業務効率化は必須です。
これにより、受付や会計業務の負担を軽減し、少ない人数でも回せる体制を構築します。
業務の標準化と多能工化
誰でも一定の業務をこなせるよう、業務マニュアルを整備し、定期的な研修でスタッフの
スキルアップを図りましょう。
特定の個人に業務が集中する属人化を解消します。
助成金活用後の「自走」を見据えた経営計画
助成金は一時的な支援
キャリアアップ助成金は初期費用を助成するものですが、恒常的な人件費増加はクリニックの
体力で賄う必要があります。
助成金ありきではなく、その後の収益見込みをしっかり立てた上で正社員化を検討しましょう。
収益改善への努力
診療報酬改定に依存せず、自費診療のメニュー拡充、地域連携強化、患者満足度向上による
リピーター獲得など、積極的な集患・増患対策を講じることが重要です。
生産性向上への意識
スタッフ一人ひとりの生産性を高めるための投資(研修、設備導入など)は、結果的に人件費効率
の改善に繋がります。
成功事例に学ぶ 両立支援と経営を両立させるクリニックの知恵

実際に、両立支援と経営の両立を成功させているクリニックもあります。
事例1:マルチタスク・スキル化とIT化で「回る」体制を構築
Aクリニックでは、数年前からスタッフのマルチタスク・スキル化を徹底。受付、診察補助、検査介助
など複数の業務を多くのスタッフがこなせるようにしました。
同時に、電子カルテとオンライン予約システムを導入し、紙ベースの業務を大幅削減。
これにより、育児休暇や時短勤務のスタッフがいても、他のスタッフが業務をカバーしやすくなり
スムーズな運営を実現しています。
「最初は大変だったけど、今では誰が休んでも大丈夫という安心感があります」とスタッフも語ります。
事例2:外部サービス活用で「必要な時に必要なだけ」の人員確保
Bクリニックでは、夜間診療や土曜診療など、特に人手が手薄になりやすい時間帯に、医療事務専門の
派遣会社や単発バイトのマッチングサービスを活用。
これにより、常勤スタッフに過度な負担をかけず、人件費も固定費ではなく変動費として管理できるため
経営の柔軟性を高めています。
「必要な時にベテランの派遣さんが来てくれるので、本当に助かっています。
常勤スタッフの残業も減り、みんなが笑顔で働けるようになりました」と院長は話します。
事例3:キャリアパスを明確化し、モチベーションを維持
Cクリニックでは、キャリアアップ助成金だけでなく、正社員登用後のキャリアパスを明確に
示しています。
定期的な面談でスキルアップの目標設定を行い、外部研修への参加も積極的に支援。
これにより、スタッフは「ここで働き続ければ成長できる」というモチベーションを保ち
結果的に高い定着率を実現しています。
「育児から復帰後も、自分の成長を応援してくれるので、時短でもやりがいを感じています」
とスタッフは語ります。
まとめ ジレンマを乗り越え、スタッフも患者も幸せなクリニックへ

育児・介護と仕事の両立支援は、これからの時代、クリニックが生き残るための必須条件となりつつ
あります。
しかし、単に制度を導入するだけでは、経営を圧迫し、かえってスタッフの疲弊を招くこともあります。
大切なのは、「助成金があるから」ではなく、「スタッフが働きやすい環境が、結果として患者さんへの
質の高い医療提供に繋がる」という視点を持つこと。
そして、そのための具体的な経営戦略と、柔軟な発想で課題解決に取り組むことです。
「人手不足」の壁を乗り越え、スタッフが安心して長く働き続けられる、そして患者さんにも選ばれ続ける
クリニックを目指し、今一度、貴院の働き方と経営を見直してみませんか?
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