クリニック新築・移転の第一歩—計画の全体像とスケジュール作成
目次
クリニックの新築や移転は、計画的なスケジュールと全体像の把握が成功の鍵となります。本記事では、以下のポイントを解説します。
プロジェクト全体の流れ(企画立案、設計、施工、引越し、行政手続き)
1.医療圏調査
地域内の人口動態、年齢構成、世帯数を分析し、需要と供給のバランスを把握し、現在の医療機関の数や診療科目の分布を調査する。
2.企画立案
どのようなクリニックを作りたいか、ターゲット層、診療内容、必要な設備のリストアップ。
- どのようなクリニックを作りたいか
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- 診療科目(例: 内科、小児科、産婦人科など)を明確にし、それに必要な設備や人員を具体化。
- 提供する医療サービスの方向性を決める(例: 一般診療、特化型診療、地域密着型など)。
- ターゲット層
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- 地域の人口構成や年齢分布に基づいて主要な患者層を特定。
- 高齢者が多い地域なら慢性疾患管理、小児が多い地域なら予防接種や乳幼児健診を考慮。
- 診療内容
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- 診療内容の幅を決める(例: 基本的な外来診療に加えて健康診断や予防接種を行うなど)。
- 必要に応じて訪問診療やオンライン診療の導入も検討。
- 必要な設備
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- 診療科目に応じた医療機器(例: エコー、レントゲン装置、内視鏡など)を選定。
- 患者用設備(例: 待合室の座席数、バリアフリー設計、駐車場の有無)。
- 電子カルテや予約システムの導入を検討。
3.設計
建物のレイアウト、設備配置、動線設計、患者とスタッフの快適性を考慮したプランニング。
- 建物のレイアウト
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- 待合室、診察室、処置室、スタッフルーム、受付、トイレなどの配置を最適化。
- 患者のプライバシーを守りつつ、診察室と待合室の距離感を調整。
- スタッフ専用のエリア(休憩室や更衣室など)を適切に配置。
- 設備配置
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- 医療機器の設置場所は、使用頻度や動線を考慮。
- 電気配線や配管計画を効率化し、メンテナンス性を高める。
- 衛生面を重視した手洗い場や滅菌設備の設置。
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動線設計
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- 患者の流れ(受付 → 診察室 → 処置室 → 会計)をスムーズにする。
- スタッフが効率的に移動できる動線設計(薬剤室と診察室の近接性など)。
- 患者とスタッフの動線が交錯しない工夫。
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患者とスタッフの快適性
- 自然光を取り入れた明るい空間設計。
- 空調や換気システムの適切な配置で快適な室内環境を提供。
- 音響設計でプライバシーを保護しつつ、静かな環境を実現。
4.施工
信頼できる施工業者選び、進捗確認、完成までの流れ。
- 信頼できる施工業者選び
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- 業者選定ポイント: 医療施設の施工実績があるか、コスト、品質、アフターサポート体制を確認。
- 見積もり比較時は内訳を細かく確認し、不明点を明確にする。
- 契約書の内容を精査し、工期やトラブル時の対応条件を明確化。
- 進捗確認
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- 定期的な現場訪問と進捗確認を行い、計画通り進んでいるか確認。
- 必要に応じて第三者の施工管理者を雇い、品質管理を徹底。
- 完成までの流れ
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- 最終的な内装・設備の仕上がりを確認し、必要な調整を実施。
- 保健所や行政機関による最終検査に対応する準備を整える。
- アフターサービス契約を確認し、長期的な設備メンテナンス計画を策定。
5.引越し
医療機器の運搬、新クリニックの準備、旧クリニックの撤収。
- 医療機器の運搬
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- 医療機器の運搬には、専門業者を利用し、精密機器の取り扱いに注意。
- 移設後の試運転や再調整を計画に組み込む。
- 運搬スケジュールを事前に決め、搬入後の配置場所を明確にしておく。
- 新クリニックの準備
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- 医療機器や備品の設置を計画的に進める。
- 電気・水道・空調設備の動作確認。
- 内装の最終チェック(仕上がり、汚れ、防音性など)。
- スタッフが新しい環境に慣れるためのリハーサル実施。
- 旧クリニックの撤収
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- 使用していない医療機器や備品の廃棄や売却。
- 契約終了時の現状復帰工事(賃貸物件の場合)。
- 患者記録の安全な移動と保管。
- 地域や患者への閉院の告知と対応。
6.行政手続き
許認可申請、検査、届け出の準備。
- 保健所
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- 工事着工までに「療所開設許可申請書」を提出。
- 開業予定日の10日前までに「医療機関開設届」を提出。地域の保健所へ要問い合わせ。
- 検査内容:開業後、施設や医療機器が医療法の基準を満たしているかを確認するための現地検査。
- 医師会
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- 「医療機関新規開設届出書」を提出。
- 開業を検討時点で事前相談を行い、手続き準備を進める。
- 厚生局
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- 保険医療機関指定申請
- 保険診療を行うためには、厚生局に申請して指定を受ける必要がある。
- 必須書類:医療機関コード取得申請書、保険医登録書類、施設基準適合書類。
- 消防署
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- 工事着工前に事前相談を行い、テナントに新規・移転開業の場合は、工事中の消防計画書を提出する必要がある。
- 自動火災報知設備の感知器は、減免または免除される区画がある。スプリンクラーヘッドも同様。
- 完成・引き渡しの1週間前には使用開始に伴う消防検査を受けるための必要書類提出・検査日の予約。
7.開業支援
クリニックの開業支援会社は、医師がスムーズにクリニックを立ち上げられるように、幅広いサポートを提供します。
- 初期段階の企画・計画支援
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- 事業計画書の作成:開業の目的やコンセプト、診療科目、ターゲット患者層、収支計画などを整理。
- 医療圏調査:立地選定のための競合調査、地域住民の医療ニーズ分析。
- 開業資金調達支援:銀行や金融機関からの融資サポート、助成金や補助金の申請。
- 物件選定と契約サポート
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- 物件探し: クリニックに適した立地の提案。商業施設内、ロードサイド物件、駅近物件など。
- 契約交渉: 賃貸契約や購入契約における条件交渉、契約内容の確認と助言。
- 建築条件の確認: 物件が医療施設として適切か、法的基準を満たしているかの確認。
- 設計・施工サポート
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- 設計支援: 診察室、待合室、処置室、スタッフルームなどのレイアウト設計。
- 施工管理: 施工業者の選定、工事スケジュールの調整、進捗管理。
- 医療機器の導入計画: 必要な医療機器の配置や電気配線・配管設計。
- 許認可申請の代行
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- 保健所への申請: 医療機関開設届の提出、施設検査の対応。
- 厚生局への申請: 保険医療機関指定申請、保険医登録申請。
- 消防署への申請: 防火設備検査の手配。
- 地方自治体への手続き: 廃棄物処理契約の手続きやその他の必要書類の提出。
- 医療機器・システム導入支援
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- 医療機器選定: 診療科目や予算に合った機器の選定、リースや購入のアドバイス。
- ICT導入: 電子カルテ、予約システム、オンライン診療システムの提案・設定。
- 機器設置・試運転: 医療機器の設置と動作確認。
- スタッフ採用・教育
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- 採用サポート: 求人票の作成、採用面接の支援、適切な人材の確保。
- 研修: 開業前にスタッフが業務に慣れるための研修プログラムの提供。
- 開業後の運営サポート
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- 広告・集客支援: 内覧会の企画、地域広告やSNSマーケティングの実施。
- 診療報酬請求サポート: レセプト作成、請求業務の指導や代行。
- 運営相談: 開業後の経営状況に応じたアドバイス、問題解決のサポート。
- 法務・税務・労務サポート
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- 契約書の確認: 不動産契約や取引契約のリーガルチェック。
- 税務相談: 開業後の税務処理、決算サポート。
- 労務管理: スタッフの労務問題の相談や給与計算代行。
8.スケジュール作成の重要性と、主要なマイルストーンの設定
設計段階からオープンまでを逆算し、具体的なマイルストーンを設定。
- スケジュール作成の重要性
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- スムーズな開業のためには、計画段階からオープンまでのスケジュールを細かく設定することが不可欠です。
- 予期せぬ遅延やトラブルに備え、各工程に余裕を持たせることで、リスクを最小限に抑えられます。
- スケジュールが明確であれば、各関係者(施工業者、スタッフ、行政機関)との連携が取りやすくなります。
- 主要なマイルストーンの設定
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- 物件確定: 開業12〜10か月前に実施。物件の選定、契約締結。
- 設計完了: 開業10〜8か月前。レイアウト、内装、医療機器の配置計画。
- 施工開始: 開業6〜4か月前。工事の開始と定期的な進捗確認。
- 許認可申請: 開業3〜2か月前。保健所、厚生局への申請書類提出と検査準備。
- 医療機器の搬入・設置: 開業1か月前。設備設置と動作確認。
- 内覧会・スタッフ研修: 開業2週間前。地域住民への告知とスタッフの業務練習。
- クリニックオープン: 開業日。事前準備を徹底し、初日のスムーズな診療開始を実現。
9.初期の予算計画と資金調達のポイント
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初期の資金調達
①資金調達手段
- 銀行融資、信用金庫、地方自治体の助成金、国の医療施設支援補助金などを活用。
- 融資の種類(固定金利・変動金利)の比較。
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- ②自己資金
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- 開業資金の20〜30%を自己資金として確保するのが理想。
- ③金融機関との相談
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- 資金計画書や事業計画書を作成し、返済計画を具体的に提示。
- 信頼できるコンサルタントの活用も検討。
- コストの内訳
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- : 医療機器、内装工事、ITシステム(電子カルテなど)。
- 運営準備費: スタッフ採用費、広告宣伝費、内覧会費用。
- その他: 許認可申請費用、保険料、事務用品費。
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予備費の確保
- 予想外の出費に備え、全体予算の10〜20%を予備費として設定。
- 特に初期運営時の赤字補填に対応できる資金を確保する。
- 融資を利用する場合は、運転資金を含めた計画を立てる。
- ①設備投資
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- 医療機器(例: レントゲン、エコー、内視鏡など)。
- 内装工事、照明、空調システム。
- ITシステム(電子カルテ、予約管理システムなど)。
- ②運営準備費
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- スタッフ採用費、広告宣伝費、内覧会費用。
- オープニングスタッフの研修費用。
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③その他
- 許認可申請費用、医療廃棄物処理契約費、事務用品費用。
- 予備費の確保
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- 予算の10〜20%を確保:予期せぬ費用(追加工事、機器のトラブル対応)に備える。
- 運転資金
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- 開業後の6か月分の運営費(家賃、人件費、光熱費)を確保。
まとめ
クリニックの新築・移転を成功させるためには、計画段階からの慎重な準備が重要です。プロジェクト全体の流れを把握し、スケジュールや予算を細かく設定することで、スムーズな進行が可能となります。
次回は、施工業者選びのポイントについて解説します。ぜひお楽しみに!
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