台風・地震発生時に“休診”をどう判断する? スタッフの安全と医療継続の狭間で
自然災害時、突然の「お迎え要請」

大きな地震や台風が発生すると、保育園や小学校から「お子さんを迎えに来てください」との連絡が親に届きます。
クリニックのスタッフも例外ではなく、一斉に家庭対応を余儀なくされることも。そんな時、管理者は次のような判断を迫られます。
〇診療を続けるか中止するか?
〇スタッフは出勤するか帰宅させるか?
〇患者さんにはどう伝えるのか?
〇そもそもスタッフの安否確認はできているか?
1.判断の基準 最優先は「スタッフと患者さんの安全」
まず原則として、人命・安全が最優先です。
大雨警報、暴風警報、震度5以上の地震など、通勤・帰宅が危険と判断される場合は、即時に診療中止を決断しても問題ありません。
【休診が許容されるケース】
以下のような状況であれば、急遽休診しても支障は少ないと考えられます。
〇スタッフの安全が確保できない場合
災害により通勤経路が寸断されたり、自宅が被災したりして、スタッフが出勤できない、または出勤
することで危険が伴う場合。
〇患者さんの安全が確保できない場合
クリニックへの交通手段が途絶えたり、クリニック自体が危険な状態になったりして、患者さんが
来院できない、または来院することが危険な場合。
〇クリニックの機能維持が困難な場合
停電、断水、医療機器の故障などにより、安全な医療を提供できない場合。
〇公共交通機関が停止している場合
多くの患者さんやスタッフ員が公共交通機関を利用している場合、その停止は来院・出勤の大きな
妨げとなります。
〇自治体からの避難勧告・指示が出ている場合
クリニックがある地域や、患者さん・スタッフの居住地域に避難勧告や指示が出ている場合。
〇周辺クリニックの対応を把握(医師会や近隣施設と連絡)
【休診に伴う配慮事項】
休診にする際には、患者さんへの影響を最小限にするための配慮が必要です。
〇迅速な情報発信
休診が決まったら、可能な限り早くウェブサイト、SNS、電話アナウンスなどで患者さんに周知しま
しょう。診療予約をしている患者さんには、個別に連絡することも検討してください。
後述しますが、LINE公式も有効な連絡手段です。
〇緊急時の連絡先
緊急で医療が必要となる患者さんのために、近隣の連携医療機関や休日・夜間診療所の情報を提供
できると良いでしょう。
〇再開の見通し
診療再開の目途が立ち次第、速やかにその情報も発信してください。
災害時の対応については、事前に緊急時対応マニュアルや災害時対応マニュアルを作成し、スタッフ間で共有しておくことが非常に重要です。
これにより、いざという時に混乱なく、適切な判断と行動ができるようになります。
ご心配な場合は、地域の医師会や保健所などに、災害時の診療体制について相談してみるのも良いでしょう。
2.「医療継続性」の観点から最小限の対応も検討
一方で、慢性疾患や不妊治療など中断による影響が大きい診療科では、完全休診が難しい場面もあります。
そこで検討できるのが「縮小診療体制」です。
【対応例】
〇医師+1名だけ残して最低限の処置・投薬のみ対応
〇新規・急ぎでない予約はすべてキャンセル
〇院内掲示、HP、SNSで「本日は縮小診療」のお知らせ
〇「公共交通が止まったら休診」「◯警報が発令されたら自動休診」など事前ルールをスタッフ
患者さんと共有
3.スタッフの子育て事情に柔軟に対応

【おすすめ対応】
〇子育て世代のスタッフは即時帰宅OKと事前に明示
〇独身スタッフ・管理職が補完可能かチームで調整
〇LINEやChatworkで状況共有 → 判断の遅れを防ぐ
4.帰宅困難なスタッフへの配慮も忘れずに
電車やバスが完全にストップし、自宅に戻れないスタッフが発生する可能性もあります。
状況によっては、患者さんも帰れない場合があることも想定しておいた方がよいでしょう。
【具体的な対応例】
〇院内に「災害時用備蓄スペース(毛布・簡易食・充電器など)」を設置
〇検査室やバックヤードなど、安全な場所を一時待機所として確保
〇災害用Wi-Fiやラジオ、簡易寝具を常備しておくと安心
〇「一人で泊まらせない」「できるだけ複数人で行動」などメンタルケアも考慮
特に難しいのが、「災害時用備蓄スペース」の確保ではないかと思います。
通常使用の倉庫は、すでに在庫のダンボールなどでいっぱいになり、備蓄品を収納するスペースは厳しいと思います。
例えば、「毛布」は小さく畳んでも場所を取ります。また、ふとん圧縮袋で小さくしても限界があります。
私からの提案ですが、アルミシートと呼ばれる約2m×1.6mの製品があります。
ネット通販でも購入できて、とてもコンパクトなので机の引き出しにも入れておけます。


HGEN アルミシート 防災 防寒 アルミブランケット キャンプ 登山 アウトドア 保温シート 静音 災害時の備え サイズ210×160cm (4個)
あと、停電やガス遮断時など、カセットコンロと予備のガスボンベ、ヤカンや片手鍋などあればカップラーメンやレトルト食品で何とかなります。もちろん、水もあればなお良いです。
患者さんへのお知らせは「LINE公式アカウント」で即時配信
突然の休診や予約変更をスムーズに伝えるには、LINE公式アカウントが非常に有効です。
現在では多くの患者様がLINEを利用しており、メールや電話よりも高い開封率が見込めます。
そのためには、事前に患者さんへの「LINEお友達」を告知し、有事の際に活用できる準備が重要です。
私が前職で大阪北部地震にて現場活動をした際に経験したことですが、携帯電話は全くつながらず、使えたのは
無線とLINEだけでした。
LINE、その誕生のきっかけは10年前の2011年に起こった東日本大震災でした。
それ以降、各地で起こった災害で活用され、今では社会インフラとしての役割も担っていると言えます。

【LINE公式・活用のポイント】
〇テンプレート文を事前に作成しておく(例:下記参照)
〇「一斉配信」と「個別返信」の使い分けを練習しておく
〇通信障害に備え、HP・Googleビジネスプロフィール・インスタとも連携を
▼配信例:休診のお知らせテンプレート
【重要】本日○月○日(◯)は台風の影響により休診いたします。
交通機関の状況やスタッフの安全確保を優先した判断となります。
すでにご予約いただいていた方には、順次こちらから変更のご連絡をいたします。
ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
◯◯クリニック(電話は大変込み合い、繋がりにくくなっていますので、HPのお問い合わせから
ご連絡ください。)
大切なのは「事前ルール化」と「共感力」

災害時の診療継続は、リーダーの即断だけではなく、平時からの備えと信頼関係がカギになります。
〇災害時対応マニュアルの整備
〇定期的な想定訓練(地震避難・休診判断ロールプレイ)
〇「命を守るために診療しない勇気」も医療従事者に必要です
まとめ

クリニックとしての対応方針チェックリスト
- 警報・交通情報をリアルタイムで確認しているか?
- スタッフの安否と家庭状況を把握できているか?
- 休診判断の基準を明文化・共有しているか?
- 帰宅困難者への対応策(寝具・備蓄)はあるか?
- LINEなどで患者さんに即時配信できる体制か?
自然災害に「完全な正解」はありません。
しかし、“備えていたかどうか”が、患者さん・スタッフ・クリニックの未来を大きく左右します。
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